『BAR ル・ヴェール』の佇まい −マナーとルールとカクテルと−
『BAR ル・ヴェール』の佇まい −マナーとルールとカクテルと−
帝国ホテルで23年、銀座で独立し12年、故郷の秋田に移り8年。様々な客の姿を見続けてきたバーテンダー 佐藤謙一氏が、バーにおけるマナーとルールについて書き下ろした指南書とも言える一冊。「多く人が集まる公共の場には必ずマナーとルールがあり、バーもその例外ではない」と語る佐藤氏の店の入り口には、ドアを引く手が思わず止まる看板が掲げられています。(現在、BAR ル・ヴェールは佐藤謙一氏の最後の弟子である伊藤秀晃氏が継承しています。)
ドレスコードがある街のバー
“当店には男女ともにドレス・コードのルールがあります”の文字が。街のバーにドレス・コードを設ける意味とは、紳士淑女が集う大人の社交場にあるべき姿とは・・・。それについて、著者の佐藤氏は次のように説明しています。
『私がドレス・コードに拘るのは、酔う為に飲む酒でなく、己を律することで酒を心豊かに愉しんで戴きたいと思うことからです。ル・ヴェールのお客様達がドレス・コードを遵守して愉しんでいる場に、ドレス・コードにそぐわない服装で来店するお客様がおりますと、店内の雰囲気が異様に変わってしまいますし、お客様達もそんな店じゃない筈と、その空気感と違和感で困惑するでしょう。 勿論、その様なお客様には事由を伝えてお帰り戴きますが、ドレス・コードがあることを理解されてご来店くださるお客様方に、不愉快な思いをさせたくないために、またご常連客を守るためにも、ドレス・コードは必要不可欠なのです。』(本文抜粋)
バーを利用する側として少し耳の痛い話もありますが、“バーでの暗黙のルールを理解し、楽しい時間を過ごしてもらいたい”という著者の深い愛情が詰まった一冊です。
また、『酒の注文について』の章では、【こんな注文をする人は、来店戴かなくても結構】と題し、次のようなマナーを挙げています。
- 「何でもいいよ」「適当に出してくれれば良いよ」
- 「私のイメージでつくって」
- 「このお店のお勧めは何ですか」
さらに、『カウンターでしてはいけない事』として、次のようなマナーも説いています。
- 注文したら、カクテルが出される前に席を立たない
- 飲み物を作っているバーテンダーに、話しかけない
- 美味しい? 不味い? などと言い合うな
- 乾杯で、グラスを合わせない
- バーで寝るな
- カウンターには、手以外は置かぬこと
- バーの備品は、勝手に触らない
などなど、この見出しを見て思い当たる節がある人も多いのではないでしょうか。ついやってしまいがちですが、こられらのルールには納得の理由がありました。オーセンティックバーをスマートに楽しむ心得として、一読する価値ありの指南書です。
重鎮バーテンダーがつくる凛とした背筋の伸びるカクテル
本書では、佐藤氏のつくるスタンダードカクテルとオリジナルカクテルを31点収録しています。詳細なレシピやつくり方、エピソードなども丁寧に書かれ、想像するだけで飲んでみたい衝動に駆られます。中でも帝国ホテルで叩き上げた正統派のクラシックカクテルは、どれも凛とした佇まいで、思わず背筋が伸びる一杯です。
著者紹介:佐藤 謙一(さとう けんいち)
1974年 東京・日比谷の帝国ホテルに入社後、23年間バーテンダーとして従事。1997年 オーナーバーテンダーとして銀座6丁目に「BAR ル・ヴェール」をオープン。2009年に故郷秋田の川反にて「ル・ヴェール」の営業を再開。著書に『バーテンダーの美学-酒場の方程式-』(たる出版)などがある。