BAR TIMES JOURNAL
苦節6年、ついに日本の頂点へ

MHD 2026年7月9日、バーテンダーなら誰もがその名を知る一大カクテルコンペティション「DIAGEO WORLD CLASS(ディアジオ ワールドクラス)」の日本予選が東京・六本木ヒルズアリーナで行われた。
「DIAGEO WORLD CLASS」は、2009年にロンドンで始まり、現在は51カ国以上の国と地域で予選を勝ち抜いてきたバーテンダーがしのぎを削る世界規模の大会だ。しかも、ただの大会ではない。バーテンダーの持つ技術、創造性、表現力、対応力、ホスピタリティまでをも競い合う、数多あるコンペティションの中でもトップクラスの難易度を誇る。
秋に行われる世界大会への切符を懸け、日本代表を決める六本木ヒルズアリーナの壇上には、今まさに、戦いを終えた10名のバーテンダーが並んだ。長尾和明の姿もある。
彼はもう何度この景色を見ただろうか。ファイナルステージに立ったのは実に5度目だ。

香川県出身。23歳でバーテンダーの道へ進み、現在は東京・池袋「Bar LIBRE」のマネージャーを務める。国内外のバーで経験を重ねながら、「DIAGEO WORLD CLASS」への挑戦を続けてきた。
シンと静まり返る会場。手を合わせ、ひいき選手の優勝を祈る観客。時が止まったかのような緊張感の中、チャンピオンの名前があがった。「ナガオ カズアキ」。瞬間、長尾は大きく息を吐いた。ついに総合優勝を果たし、日本代表として世界大会への切符を手にしたのだ。身体が震えた。頭が真っ白になった。チャンピオンとしてステージ中央のマイクに立ったものの、用意していた言葉はほとんど出てこなかった。
「目の前のお客さんが、めちゃくちゃ泣いてて。それを見たら僕もぐっときてしまって。本当にありがとうございます、って言うのが精一杯でした」
会場には、長尾の挑戦を見続けてきた仲間たちがいた。書類審査から数えて6年。何度も日本一を期待され、そのたびに届かなかった。応援してくれる人が増えるほど、勝てないことへの申し訳なさも年々大きくなっていった。
「自分自身がつらいというより、毎年スタッフのみんなが応援してくれているのに、期待に応えられないのが苦しかったです。今年も勝てなかった。ごめんなさいって」
だからこそ、壇上で名前を呼ばれた瞬間、最も強く込み上げたのは勝った喜びだけではなかった。
「うれしいというより、やっと恩返しができたという気持ちでした。これでようやくキヨさんに念願のトロフィーを渡すことができた、そんな思いです」
「キヨさん」とは、長尾が現在マネージャーを務める池袋「Bar LIBRE」のオーナーバーテンダー、清崎雄二郎氏のこと。長尾は親しみと敬意を込めて「キヨさん」と呼ぶ。ステージを降りると清崎氏が大きく手を広げて待っていた。抱きしめられた瞬間、それまでこらえていた感情が一気に溢れ出た。
「ようやくトロフィーを渡すことができた」という言葉には、清崎氏への思いだけでなく、挑戦を支えてくれた家族やスタッフ、仲間たちへの気持ちも込められていた。
実は、この大会のわずか10日前、6月29日に長尾には第一子が誕生している。大会へ向けた最後の準備と父親としての生活が同時に始まったのだ。